レーシックの真実

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レーシックと過矯正2

そもそも多少の個人差はあっても、どれだけ矯正を加えたら(その個人に対しては)ちょうど良い矯正になるのかを知ることは、そんなに難しい問題なのでしょうか。無資格、無経験で開業している眼鏡店やコンタクト店が存在したとしても、それが個人の健康を損ねたり、社会問題化するほど無茶な処方をすることは稀(難しい)でしょう。

現在、眼鏡店などでも使用される全自動屈折検査器(オートレフと呼ばれています)などはとても良くできており、素人でも1週間ほど練習するとそれなりの処方ができるようになります。勿論、そのような処方で良いわけではありませんが、少なくとも個人の健康を損ねるようなことはないでしょう。もっとも、不都合な眼鏡処方であれば使用しなければすむだけの話ですし、再度眼鏡店に相談を持ちかけることもできます。しかしこれが手術となるとそう簡単にリカバーすることはできません。

私は、手術前の患者さんの眼を数多く検査してきて、術前に皆さんが使用しているメガネやコンタクトの処方のいい加減さに驚くことが時としてあります。しかし、それらを使用している当事者の皆さんは「これ良くなかったのですか?」と平気な顔をしていることがほとんどです。つまり多少、矯正が強かったり、バランスが悪かったりしても皆さんの眼は意外なほどそれに耐えているということです。ドライアイや軽い眼精疲労くらいはあるかもしれませんが、それが理由で鬱症状まで引き起こすとはありません。勿論、メガネやコンタクトは途中で外すことができるという点は大きな違いですが…。

様々なレーシック術後後遺症で悩んでいるの患者さんを調べてみると、術者の予想を(はるかに)上回る矯正が行われていることがしばしばあります。皆さんに取り寄せて頂いたカルテの中の手術記録を調べてみると、レーザー入力値や目標矯正度数はリーズナブルであっても、術後に患者さんの眼に現れた屈折状態に唖然とすることがあります。

何故このようなことが起きるのかということについてすこし説明しましょう。エキシマレーザーで角膜実質組織を一定パターンで「蒸散」することにより、近視や乱視、遠視を矯正することができます。例えば近視矯正の場合、角膜中心部(正確にはOZ(オプティカル・ゾーン)と呼ばれるところ)に凸レンズ状のへこみを作るわけです。このへこみは強ければ強いほど矯正は強くかかります。ところで-6.00D(ディオプター)の矯正を行いたい場合、レーザーのモニター画面の上でその度数に相当する数値を入力します。するとエキシマレーザー・システムは入力された度数に相当するレーザー照射時間を提示してきます。
つまりレーザーを扱う人間は矯正度数を尺度にするのに対して、レーザー・システムは照射エネルギー量をその尺度にします。

ところで、レーザーの照射エネルギー量は同じであっても、角膜実質を構成するコラーゲン組織の密度(正確には電子密度です)に個人差があれば、(当然のことですが)矯正効果は大きく変化します。
コラーゲン組織の密度が高い場合、矯正効果は落ちますし、反対にコラーゲン組織の密度が低い場合、矯正効果が上がることは理解できるでしょう。

さて、執刀医はモニター画面の前で治療をしようとする、ある患者さんに必要と考えられる矯正量を矯正度数の形で入力することになります。そのため、どうしても入力した矯正度数が患者さんの眼に再現されることを期待(予想)しています。つまり-6.00Dの眼に-6.00Dの入力をすることは当然だと考えるわけです。それがヒトの角膜ではなく、プラスチック板であればいつも同じ矯正度数が得られますが、ヒトの角膜にはかなり大きな個人差(バリエーション)が存在します。この個人差はある程度、臨床の現場でも理解されており、「ノモグラム」と呼ばれる換算表を用いて、照射量を換算しています。

例えば、同じ近視矯正手術でもPRK手術の場合、-6.00Dの眼の治療にはそのまま-6.00Dの入力をし、レーシック手術の場合は-5.50Dの矯正になるなど、手術方法と近視度数に関してはフィードバックされます。言い換えると、臨床の現場では「手術方法」と「矯正度数」の二つのパラメーターが存在するだけです。同じレーシック手術を受け、-6.00Dの近視のヒトであれば、AさんもBさんもZさんも、みな同じ入力になります。

そもそもPRK手術に始まったエキシマレーザーによる近視矯正手術は、その開発当初から近視の度数によって、その矯正効果に大きなばらつきがあることが分かっていました。そこで照射するレーザー・エネルキー量と予想(期待)される矯正度数とをノモグラムとしてレーザー・プログラムに移植しているのです。

開発当初はこのノモグラムの差が、レーザー・システムの性能差として理解されていました。
しかし現在ではその差はほとんどないものと考えて良いと思いますが、あくまでもレーザー・システムに移植されているのはPRK手術を前提にしたノモグラムなのです。レーシック用ノモグラムではありません。そこで10年ほど前から始まったレーシック手術の入力に関しては、各レーザー・クリニックが固有のノモグラムを使用してレーシックを行い始めたのです。

レーシック手術の場合、ある理由があってPRKよりも「エネルギー  対  矯正効果」の率が良いのです。一般的にそれが-10%から-20%と考えられていますが、クリニックによっては0%補正のままで実施しているところもあります。不都合な矯正結果が一定割合で起きても不思議はないでしょう。

当時、私自身もこのレーシック用ノモグラムを作り、今日まで患者さんの治療に当たってきました。いまでもその補正値に変更を加えることがあるくらいに微妙なものです。そのため私のレーシック用ノモグラムと、他のクリニックのそれとの間に相違があっても不思議はありませんし、それはごく普通のことと理解しています。いずれにせよ、近視度数は最大の矯正効果に影響を与えるパラメーターです。このことは広く、良く理解されているはずです。しかし、レーザーによる矯正適応範囲がPRK手術全盛の当時の-3.00Dから、せいぜい-5.00Dまでの矯正とは桁外れの矯正が行われている現在では、近視度数以外の要素を正確に把握していかなければならないのでしょう。

ところで、角膜実質の電子密度以外にエキシマ・レーザーによる屈折矯正効果に影響を与える要素として、角膜曲率半径、角膜厚、角膜径、フラップの大きさ、そして年齢などがあります。これだけの要素をすべて考慮して安全に、且つ正確に手術を遂行することはとても難しいことです。

これだけたくさんの要素があると単なる「ノモグラム」に依存したレーシック手術には、ある一定割合のリスクが存在するということです。もっとも簡単なリスク忌避の方法は分割照射でしょう。先ず1回目のレーザー照射で必要と考えられる矯正量の80%を矯正し(近視の度数や年齢によっても変わりますが)、後日残りの必要度数を定量して、必要な分だけ2回目のレーザー照射で矯正するという「計画的2期手術」というのが、現在考えられるもっとも安全な方法でしょう。

しかし、これにはコストや時間、そして何より患者さんの理解が必要不可欠です。